2014年04月19日

「前立腺は切らずに治す!」(小学館文庫)

前立腺は切らずに治す!
前立腺肥大症、前立腺がんの基礎知識と最新治療法




   
                             医療法人社団徳仁会 
                             おおあみ泌尿器科院長 鈴木文夫


 最近、オシッコの出が悪いし、夜も寝てから何度もオシッコに起きるようになった。オレももう歳なのかなぁ……心ひそかにそんなことを考えては、鬱々としている男性が意外と多いようです。
 ところがそうした自覚症状がありながら、なかなか病院に行こうとしない人が少なくありません。そしてこう言うのです。
「場所が場所だけに恥ずかしい」
「ヘタをして手術でもされてしまったら男≠ニしてダメになるんじゃないか」
「仕方がないとあきらめていた」
 でも、歳をとれば、多少の排尿障害が出てくるのもけっして不自然なことではありません。それが当然のことだと考えたほうがいいほどです。
 そもそもこうした症状は、膀胱の真下にある前立腺という男性特有の臓器が肥大して、尿道を圧迫するために起こります。
なぜ、前立腺が肥大するのか、まだ正確な原因はわかっていませんが、高齢になれば、ほとんどの人に前立腺肥大の兆候があらわれますから、病気というよりも一種の老化現象だと考えたほうがいいでしょう。
 前立腺肥大症への関心が高まり、平成11年度の厚生労働省医療技術評価総合研究事業として作製された、「前立腺肥大症の診療ガイドライン」では、薬物治療や手術治療とならんで低侵襲性手術は独立した治療法として取り上げられています。高温度療法のような日帰り手術も可能となってきました。できるだけ切らずに治す方向へと進んでいます。できるだけ早く、専門医の診断と適切な治療を受けることで、すばらしいQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を取り戻し、快適な生活を送るようにしたいものです。
 さらに、早めの診断・治療をお奨めするのには、もう一つの理由があります。
 実は、前立腺肥大の症状の影に、前立腺がんがひそんでいることがあるのです。前立腺がんにしても治療法がたいへんに進歩して、早期に発見し治療すれば、かなりの治癒率を上げられるようになっています。しかし、その前提として早めの治療がなにより求められることは言うまでもありません。
 最近、セカンド・オピニオンという概念が、医療現場に登場しつつありますが、前立腺肥大症や前立腺がんに悩んでおられる方はもちろん、既に何らかの治療を受けている方にも、コンパクトにまとまった専門知識として本書をお薦めいたします。
 五〇代になり、ちょっとオシッコの具合がおかしいな、と感じたら、迷わず専門医の診断を受けるようにしていただきたいものです。それがすばらしい老後を送る第一歩となるのです。


  本書を恩師、千葉大学大学院医学部名誉教授 伊藤晴夫先生に捧げます。



もくじ

はじめに 
第一章 こんな症状はありませんか?
■こんな自覚症状に要注意!
■その他、気をつけたい前立腺肥大症の症状
■いずれにしても五〇歳をすぎたら、検査を受けよう
第二章 前立腺の仕組みと病気
■増加している前立腺肥大症
■そもそも前立腺とはどんな器官なのか
■オシッコはどうやって出るのか
■射精にも関係している前立腺
■ホルモンバランスの崩れが前立腺肥大の原因か?
■前立腺肥大症はこうして進行する
■自覚症状があらわれない場合も
■気をつけたい合併症「尿路感染症」
■前立腺肥大症と間違えやすい病気
■急増している前立腺がん
第三章
■前立腺を調べるなら泌尿器科
■泌尿器科で行われる前立腺肥大症と前立腺がんの主な検査
第四章 前立腺肥大症を切らずに治すPART1 薬物療法最新治療情報
■治療するかしないかは、患者自身の気持ちが第一
■切らずに治す≠ェ主流になってきた
■まずは前立腺肥大症の不快な症状を薬で改善する
第五章 前立腺肥大症を切らずに治すPART2 経尿道的前立腺切除術・レーザー療法ほか
■メスを使わず、内視鏡で手術が可能
■レーザー光線で患部を焼却
■その他、前立腺肥大症の治療法
■開腹手術は最後の手段
第六章 前立腺がんを治す最新治療法
■前立腺肥大症とそっくりな前立腺がんの初期症状
■前立腺がんの検査
■前立腺がんの病期(ステージ)
■前立腺がんの治療
■再発時の治療法
■前立腺がんの治癒率・生存率
第七章 前立腺肥大症とつきあう九つの鉄則
■老化現象だからとあきらめてはいけない
おわりに





第一章 こんな症状はありませんか?


■こんな自覚症状に要注意!

 以前はオシッコをすると、とてもスッキリしていたのに、最近どうもおかしい。あなたは次に上げるような症状を感じていませんか?
 もし、ここ一か月ほどの間で思い当たることがあれば、前立腺肥大症の可能性があります。すぐに泌尿器科にいって診てもらうことをおすすめします。

@排尿後まだ残っている感じがありませんか?
 オシッコをしても、どうもまだ膀胱に残っているような感じ……「残尿感」が消えずに困っていませんか。
 そもそも腎臓でつくられたオシッコは、いったん膀胱に溜められますが、オシッコの量が増えるとともに膀胱の内圧が高まり、膀胱の壁が徐々に伸びていきます。その刺激が脳に伝わることで、尿意を覚え、「排尿しよう」という意識が働き、それまで尿が流れないように尿道を閉めてしていた尿道括約筋がゆるめられると同時に、膀胱の排尿筋も収縮して、オシッコがいきおいよく流れ出るという仕組みになっています。
通常、成人の膀胱に溜められるオシッコの量は約三〇〇〜四〇〇ミリリットルですが、健康なときなら、一度のオシッコでそのほとんどを出し切ることができます。
ところが、前立腺が肥大してくると、その中を通っている尿道が圧迫され、排尿筋の収縮力をもってしても、十分にオシッコを出し切ることができないようになってしまいます。そのため残尿感を覚えるようになってしまうのです。

A排尿後二時間以内にもう一度いく必要がありませんか?
 通常、健康な成人男性の排尿回数は、一日に五回から六回といわれています。もちろん、水分を摂りすぎたときや寒いとき、あるいは緊張したときなど、オシッコが近くなることがありますが、一度オシッコをしたあと、二時間以内にまた行きたくなるような状態が続くときは要注意です。
 前述のように、前立腺肥大のために膀胱内にオシッコが残るようになっているために、時間をおかず、オシッコに行きたくなってしまうのです。こうした症状は「頻尿」と呼ばれますが、一日に八回以上、オシッコをするようになったら、一度検査してもらったほうがいいでしょう。

B排尿の途中で、尿がとぎれることがありませんか?
 以前はいったんオシッコを出し始めると、途中で止まるようなことはなかったのに、最近、一気にオシッコすることができず、とぎれてしまう。
 これは「尿線中絶」という症状ですが、老化のために膀胱の筋肉が弱くなっているか、前立腺肥大症のために尿道が圧迫され、放尿力が弱くなっている可能性があります。

C尿意を催したとき、がまんするのがつらくないですか?
 これは「尿意切迫感」と呼ばれる症状ですが、急性細菌性膀胱炎のような炎症が起きている場合などにも起きますが、前立腺肥大症によって、膀胱が過敏に活動するようになったときなどにも、少ししかオシッコは溜まっていないにもかかわらず強い尿意を感じるようになってしまいます。
 また、そのように切迫した尿意のために、トイレに行き着くのが間に合わず、途中で失禁してしまうこともあり、「切迫性尿失禁」と呼ばれています。

D尿のでる勢いが弱いことがありませんか?
 以前はジャーッと勢いよくオシッコが出ていたのに、どうも最近、チョロチョロとしか出ないという人は、「尿線細小」が疑われます。前立腺がはれたために、尿道が圧迫され、オシッコの線が細くなってしまったのです。

E排尿を始める時、いきみが必要ですか?
 健康なときなら、さあ、オシッコをしようと思って、ちょっといきみさえすれば、すぐに出るものです。しかし、前立腺が肥大していたり、膀胱の筋力が弱っていると、なかなか出てこなくなります。
 また、オシッコが出始めるまでに時間がかかると同時に、出終わるまでの時間もかかるようになります。
 通常、二〇秒程度で終わるものですが、それが一分以上かかるようなら、検査が必要です。

F夜寝てから朝起きるまでに何回排尿に起きますか?
 通常、人が就寝後にオシッコに立つのは多くても一〜二回です。
もし、それ以上、オシッコに立つようになったら、「夜間頻尿」です。まず前立腺肥大を疑ってみるべきでしょう。

 さて、ここで挙げた七つの質問は、アメリカ泌尿器科学会がつくった「国際前立腺症状スコア」(IPSS:International Prostate Symptom Score)に基づいたものです。
 この国際前立腺症状スコアは、最近では、日本の医療現場でも診断の際によく使われるようになっていますが、残尿感、二時間以内の排尿、尿線の途絶、尿意切迫感、尿勢の低下、排尿時のいきみ、夜間尿回数などの項目にわけられ、各症状に出現頻度によって点数化されています。その点数が大きくなればなるほど、重症である可能性が高いというわけです。
また、その自覚症状の質問に続いて、「現在の排尿の状態が、今後一生続くとしたら、どう感じますか」という質問があります。
これは、排尿に関する満足度(QOL)スコアと呼ばれていますが、患者さんの満足度をやはり点数で評価します。そもそも、前立腺肥大症という病気は、それ自体が原因で死にいためように病気ではありませんから、生活するうえでの患者さんの満足度が治療にあたっての重要な要素となるからです。
さて、あなたも次のページの質問表に記入して、合計得点を出してみてください。国際前立腺症状スコアで、あなたが五〇歳以上で〇〜七点の軽症ならまず問題ありませんが、八点以上になるようなら、ぜひ一度、泌尿器科で診てもらうことをお奨めします。適切な治療を受けることで、満足度スコアの点数を下げることができるはずです。



■その他、気をつけたい前立腺肥大症の症状

前立腺肥大症の最大のものは、ここまで述べてきたような排尿障害です。それ以外にも、次のような自覚症状から前立腺肥大症が発見されることもあるので紹介しておきましょう。

@血尿が出る
血尿といっても、前立腺肥大症が原因で、見た目ではっきりとわかるような真っ赤な血尿が出ることはまずありません。ほとんどの場合、見た目は正常なオシッコとまったく変わらず、病院で尿検査などしてもらわなければわかりません。
とはいえ、前立腺肥大症はできるだけ早く見つけたいもの。そこで、たとえば風邪などひいて、病院にいったときなどの機会をとらえて、なるべく頻繁に尿の検査をしてもらうようにしてはいかがでしょうか。
それがきっかけで他の病気を見つけることもできるかもしれません。

Aどうも足がむくむ
足のむくみも前立腺肥大症の症状の一つです。排尿障害のために、腎臓に負担がかかり、むくみが起きてくるのです。
また、前立腺が肥大して腎臓に負担がかかる状態が続くと、血圧や心臓にも影響を及ぼし、思わぬ余病を引き起こすことにもなるので注意が必要です。

B風邪薬を飲むとオシッコが止まってしまう
前立腺肥大症の人が風邪薬を飲むと、とたんにオシッコの出が悪くなってしまうことがあります。これは、風邪薬の中に抗コリン剤や抗ヒスタミン剤など、膀胱の働きをにぶくする成分が入っているからです。ふだんはまったく症状があらわれていなくても、風邪薬を飲むことで、症状が表面化してしまうわけです。また、それがきっかけで、前立腺肥大症が悪化することもありますから、日頃、風邪薬を飲むとどうもオシッコの出が悪くなるなぁと感じている人は、事前に病院で診てもらっておいたほうがいいでしょう。

C飛行機に乗るとオシッコが止まる
最近、飛行機に乗って長い間同じ姿勢で座っているとエコノミークラス症候群になると騒がれていますが、前立腺肥大症の患者さんにとってもけっしていいことではありません。前立腺肥大でただでさえ圧迫されていた尿道が、さらに狭められ、一気にオシッコがでなくなる「尿閉」になってしまうのです。
それは汽車や車での長時間の移動、あるいは長時間座りっぱなしで仕事をするようなときも同じです。

Dお酒を飲むとオシッコが止まる
 前立腺肥大症の人にとって、お酒の飲みすぎもいいことではありません。お酒を飲むことによって、前立腺にうっ血がおき、さらに肥大が進んだり、お酒による利尿で膀胱に大量のオシッコが溜まり、排尿筋や括約筋のバランスが崩れ、症状が一気に出てしまうこともあるのです。酒は百薬の長といいますが、飲みすぎは大敵。ほどほどを心がけるべきでしょう。

■いずれにしても五〇歳をすぎたら、検査を受けよう

 どんな病気でもそうですが、人よって症状のあらわれ方は様々です。同じように前立腺が肥大していても、重い排尿障害を起こす人もいれば、ほとんど何の障害も起こさない人もいます。
 しかし、これは次の章でも詳しく説明しますが、男性ならほとんどの人が、歳をとるに従って、いくばくかの前立腺肥大の症状を呈してくるものです。その分岐点は五〇歳。いまや、日本人男性の平均寿命も八〇歳になろうとしています。長い老後を健康かつ快適に過ごすためにも、五〇歳になったら、前立腺の検査を受けて、自分の健康管理に役立てたいものです。

【囲み】これだけは聞いておきたい素朴な疑問
Q1 よく、歳をとるとオシッコのキレが悪くなるといいますが、それも前立腺肥大のせいでしょうか?
A 尿のキレが悪い症状は「終末時滴下」「排尿直後の尿失禁」と呼ばれていますが、オシッコを終えた後、少量のオシッコが滴る状態です。
これは、放尿力が低下したために尿道に残ってしまった少量の尿が、膀胱に戻りきれずに滴り落ちてしまうもので、前立腺肥大症の症状として、かなり早い段階から見られます。
 また、前立腺の肥大がさらに進み、膀胱内の残尿量が増えると、排尿直後だけではなく、気がつかないうちに失禁してしまう「奇異性尿失禁」という症状が出てくることもあります。
 そうした症状も、早めの治療で改善することができるので、病院には恥ずかしがらずに行ってもらいたいものです。

第二章 前立腺の仕組みと病気

■増加している前立腺肥大症
 欧米の先進諸国と同様、わが国も人口の高齢化が進んでいます。日本の将来推計人口(1997年1月推計)によると、55歳以上男性人口は1995年の1500万人から2010年には2100万人へと急増し、その後2030年2250万人のピークまで緩徐に増加しつづけたのち減少傾向に転じると予想されます。
 厚生労働省では、わが国の前立腺肥大症の患者総数(通院患者数)を、三二万六〇〇〇人(二〇〇一年度)と発表しています。この数字は一九八七年を一とした場合、約二・五倍の数字にあたります。
 また前立腺集団検診での頻度から計算した要治療前立腺肥大症は、1995年150万人、2010年198万人、2030年219万人となります。
 その一方で、六〇代の人の約七〇%、七〇代の人の約八〇%に、なんらかの前立腺肥大の症状が見られるというデータもあります。つまり、前立腺肥大症は、けっして特別な病気ではなく、むしろ、歳をとるにしたがって、ごく自然に出てくるからだの変化だととらえたほうがいいのです。
 今後、わが国では高齢化社会が進むにつれ、ますます前立腺肥大症の患者さんが増えていくことが心配されていますが、そうしたことを考え合わせると、前立腺肥大症をどうやって克服するかということよりも、いかに前立腺肥大症とつきあっていくかを考えたほうがよさそうです。
 幸い、前立腺肥大症そのもので命を奪われるようなことはほとんどありませんし、治療法も進歩して、仮に何らかの症状があらわれてきても、症状を改善し、以前とほとんど変わらぬ生活が送れるようになっています。
 まずは前立腺肥大症そのもののメカニズムと、正しい対処法を知ることが何より大切だといえるでしょう。


■そもそも前立腺とはどんな器官なのか

 前立腺が男性特有の臓器≠ナあることは第一章でも述べましたが、その大きさは、成人でクルミほどの大きさで、まるでクリの実のようなかたちをしています。健康な前立腺は、横幅が3.5センチ、長さが3センチ程度で、重さは15〜20グラム。膀胱の下に、ちょうど尿道と射精管を包みこむような状態で位置しています。
この前立腺は外から触れることはできませんが、肛門から指を五センチほど入れると、直腸壁を隔てて、触れることができます。そこで、泌尿器科では、直腸診で、前立腺の状態を調べたりもしています。
さて、前立腺は「前立腺液」を分泌して精液に栄養を与え、精子の活動を活発にしたり、膀胱の出口を開け閉めしたりする働きをしていることはわかっています。しかし、そのほかにどんな役割や働きをしているのかということについては、まだ詳しくはわかっていません。「未知の臓器」と呼ばれる由縁です。
内部には前立腺液を分泌する組織や血管などがびっしりと詰まっていますが、内側(内腺:ないせん)と外側(外腺:がいせん)にわけられています。また、移行ゾーン・中心ゾーン・辺縁ゾーンの三つにわけることもあり、移行ゾーンと中心ゾーンは内腺、辺縁ゾーンは外腺にあたりますが、前立腺肥大症は、このうち内腺(中心ゾーン・移行ゾーン)が肥大するために引き起こされます。


■オシッコはどうやって出るのか

 腎臓でつくられたオシッコが、膀胱に溜められ、最終的に尿道を通して体外に排出されることはみなさんもよくご存知でしょう。
 では、どうやって膀胱に溜まっているオシッコが漏れでないように、膀胱の出口にあたる膀胱頸部を閉じているのでしょうか?……それこそ尿道括約筋と前立腺の役目です。
 オシッコが溜まっているときには、交感神経が働くことによって、膀胱が弛緩する一方、尿道括約筋や前立腺が収縮するので尿は出てこないようになっているのです。
 しかし、膀胱がいっぱいになると、その信号が大脳に伝えられ、「尿意」として認識されます。そして、尿意を認識した大脳は、副交感神経で、「膀胱を収縮し、尿道括約筋や前立腺を弛緩させよ!」という指令を送ります。
その指令を受けた尿道括約筋や前立腺がゆるみ、膀胱が収縮するのですから、中に溜まっていたオシッコは勢いよく尿道を走り抜け、外に放出されることになります。これが排尿のメカニズムです。
 ところが前立腺が肥大してくると、指令を受けても、前立腺そのものが大きくなっているのですから膀胱頸部を圧迫したままの状態になってしまいます。そのため、出口は十分に開かず、オシッコの出が悪くなってしまうのです。



■射精にも関係している前立腺

 もう一つ、前立腺が果たしている大切な役割があります。それは射精です。
 そもそも男性が性的に興奮してくると、大脳は、「ペニスに大量の血液が送り込め!」と号令をかけます。そして、流れ込んだ血液が海綿体を膨張させ、ペニスを勃起させるのです。
 そして、前立腺のすぐ下にあるカウパー腺という器官から尿道内に粘液が分泌されます。この粘液はアルカリ性で、尿道内を弱アルカリにすることにより、精子が生存しやすい状態にする役割を果たします。
 続いて尿道括約筋のうち、もっとも膀胱に近いところにある内尿道括約筋が収縮して尿道を閉じて、射精のときにオシッコが出てこないようにすると同時に、内尿道括約筋の下にある外尿道括約筋も収縮して、精液を溜めるスペースを確保します。
この段階で、前立腺内の尿道にある射精管の出口が開き、そのスペースに、二〜四ミリリットルの精液が溜められます。これで準備OKです。
そして、男性が絶頂を達すると、精管や精嚢、前立腺、尿道括約筋などが激しく収縮すると同時に、外尿道括約筋がゆるみ、溜まっていた精液が勢いよく放出されていくのです。



【囲み】これだけは聞いておきたい素朴な疑問
Q2 前立腺が肥大してくると勃起力が弱くなると聞いたことがあります。前立腺肥大症と勃起不全症(ED:Erectile Dysfuction)は関係があるのでしょうか?

 ズバリ、前立腺肥大症とEDとの間に直接の関係はありません。確かに、前立腺の周りには、勃起に関係している血管や神経が集中していますが、前立腺内部に、それらの血管や神経があるわけではありません。ですから、前立腺が肥大したからといって、それだけでEDになることはありえないわけです。
 むしろ私は、前立腺肥大症だと診断された患者さんが、それをことさら深刻にとらえ、気に病むことのほうが心配です。強い精神的なストレスとなって、結果的にEDになる可能性があるからです。
「前立腺が肥大したぐらいで、男性機能を失うことはないのだ」とおおらかに構えてほしいものです。
 とはいえ、前立腺肥大症が進み、手術しか治療法がなくなったような場合、手術によって周囲の神経や血管を傷つけてしまい、EDになってしまう可能性もあります。それだけに、早めの診断で、前立腺を切らずに治すという姿勢が大切になってくるわけです。



■ホルモンバランスの崩れが前立腺肥大の原因か?

 それにしても、なぜ、歳をとると前立腺が肥大してしまうのでしょうか?
 その正確なメカニズムはまだ正確には解明されていませんが、どうも、男性ホルモンと関係しているようだといわれています。
そもそも前立腺の機能は男性ホルモンによってコントロールされており、男性ホルモン(テストステロン)が増えてくる思春期になると、前立腺そのものも大きくなり、機能も盛んになってきます。二〇〜三〇歳で、前立腺の大きさや機能はピークを迎えますが、生物学的には、その時期がまさに男盛り≠ニいっていいでしょう。
ところが、三〇代後半には、前立腺の内腺部に小さな肥大結節ができてきます。これは、「組織学的な肥大」と呼ばれていますが、四〇代で四〇%、五〇代で五〇%、六〇代で六〇%、七〇代で七〇%の人にみられる症状で、ある意味ではあって当然の症状です。
その後、四〇歳前半ぐらいまでは、前立腺そのものの大きさにさほどの変化はあらわれません。むしろ、男性ホルモンの分泌が減少するにつれ、前立腺は萎縮する傾向にあります。
しかし四〇代後半から五〇代になるにつれ、その度合いは人によって違いますが、前立腺は徐々に肥大していくのです。
その原因は中高年になって、男性ホルモンの分泌量が減少して、相対的に女性ホルモンが増加することにより、ホルモンのバランスが崩れてしまうためではないかと考えられています。
前立腺の肥大には、特徴によって機械的閉塞と機能的閉塞の2つのタイプに分けられます。機械的閉塞は、前立腺そのものが肥大して、尿道を圧迫し、排尿障害を起こすタイプです。一方、機能的閉塞は、交感神経の働きによって前立腺が肥大し、尿道を圧迫して排尿障害を起こすタイプです。経験的に、寒くなると交感神経を刺激してオシッコの回数が多くなったり、オシッコが出にくくなるのは多くの方が経験していると思います。とくに、普段から排尿障害がありながら、寒い冬に、宴会で付き合いで、つい多くお酒を飲んで尿閉で受診する患者さんを時々見かけます。深酒は、くれぐれもご注意を。
それから、食生活の変化が前立腺肥大症増加の原因だという説もあります。もともと、前立腺肥大症は日本の男性より、西欧の男性にはよくみられる病気だといわれていましたが、近年、日本人の食生活が西欧化して、高たんぱく、高脂肪の食事をするようになったために、前立腺肥大症も増加しているのではないかというのです。

■前立腺肥大症はこうして進行する

 前立腺肥大症は、ここまで説明してきたように、急になるものではなく、徐々に進行していく病気です。医療現場では、進行具合によって三つのステージにわけて考えています。

第一期 膀胱刺激症状期
まだ症状が軽い時期です。前立腺が肥大し始め、それが膀胱の下部や尿道を刺激するようになり、実際にはそれほど尿が溜まっていないにもかかわらず、下腹部に不快感があらわれ、オシッコに立つ回数が増えてきます。排尿後二時間以内に尿意をもよおすなら「頻尿」です。
さらに、トイレに行ってからも尿が実際に出るまでに時間がかかるし、オシッコの勢いもなく、尿線も細くなって、出始めても終わるまでに時間がかかるようになります。
ただ、この段階では、まだ残尿感を訴えることはあまりありません。


第二期 残尿発生期
前立腺の肥大がさらに進み、尿道の圧迫のため、オシッコの出がますます悪くなると同時に、膀胱を収縮させる筋肉の力が弱くなり、オシッコを完全に出すことができなくなるため、排尿しても膀胱内にオシッコが残り、残尿感を感じるようになります。
そのため、第一期より、トイレに立つ回数が増えてきますし、膀胱にそれほどオシッコが溜まっていないにもかかわらず、急に尿意を感じる「尿意切迫感」や、我慢できずに失禁してしまう「切迫性尿失禁」などの症状を訴えるようになります。
また残尿の量が多くなると、「尿路感染症」も起きやすくなってしまいます。尿路感染症とは腎臓から、尿管、膀胱、尿道にいたる部位で起きる感染症のことで、一般的には大腸菌などの感染によって引き起こされますが、腎盂炎や尿管炎、あるいは尿道炎などになるばかりか、腎臓の機能にも悪い影響を与えることもあります。
そのため泌尿器科では、こうした患者さんに対し、排尿後にカテーテルという管を尿道から膀胱内に挿入して、残尿を抜く処置をほどこすこともあります。
また、この第二期からあらわれる症状が「尿閉」です。
尿閉は、膀胱がオシッコでいっぱいになり、オシッコをしたいなと感じても、膀胱の口が開かないために、オシッコが出なくなる症状です。とくにある日、突然にオシッコが出なくなる「急性尿閉」になると、七転八倒するほどの痛みと苦しさに襲われることになります。そこで泌尿器科では、オシッコを出すためにカテーテルなどをつかって導尿処置を施すことになります。


第三期 膀胱拡張期(慢性尿閉期)
 この段階になると、前立腺の肥大はさらに進み、その圧迫のために尿道はますます狭くなってしまいます。残尿も進み、膀胱内には常に一五〇〜三〇〇ミリリットルを超える尿が残り、下腹部の不快感はますます強くなってきます。
さらに、その状態が長く続くと、「膀胱拡張」といって、膀胱そのものの筋肉も伸びきり、異常に拡張してしまう状態になり、かなりの力でいきまないとオシッコが出ない、「腹圧排尿」になったり、膀胱が収縮力を失って、自分でオシッコを出すことができなくなり、ちょうど一杯になったコップから水が溢れ出るように尿が少量ずつ漏れる「溢流性尿失禁」という状態になることもあります。ただし、患者さんに、尋ねると、「オシッコはよく出ます」と答えて、案外、自覚症状が少なくて、見逃しやすいこともあり注意が必要です。
 また多くの場合、「尿閉」があらわれ、そのまま放置しておくと腎臓機能に障害を及ぼす危険性も高まります。膀胱にオシッコが溜まっているため、腎臓から膀胱にうまくオシッコが流れなくなり、腎臓や尿管にオシッコが溜まってしまうようになってしまうのです。そうなると、最終的に腎不全を起こし、命の危険さえ出てきます。
 泌尿器科では、そうした症状に対し、まず、膀胱内の残尿をなくす処置がとられますが、約一週間程度で回復します。


■自覚症状があらわれない場合も

 一般的に、前立腺肥大症は、前述のように段階的に進行していきますが、中にはほとんど自覚症状のあらわれない人もいます。前立腺の肥大の仕方によっては、尿道をそれほど圧迫しないこともあり、排尿障害までいたらない人もいるのです。
 一方、前立腺肥大がそれほど進んでいないにもかかわらず、少々、オシッコのキレが悪くなっただけで、やたらと心配する人もいます。それがストレスの原因ともなりかねません。
 ほんとうなら治療を始めたほうがいいのにそれに気づかないのも、それほど心配いらないのに心配ばかりするのも、いずれもいいことではありません。
やはり、五〇歳になったら、泌尿器科で見てもらって、自分の前立腺がどういう状態になっているのか、把握しておくことが大切なのです。

■気をつけたい合併症「尿路感染症」

 第二期のところで簡単に説明しましたが、前立腺肥大症の合併症として最も気をつけたいのが「尿路感染症」です。
 尿路感染症とは、腎臓→尿管→膀胱→尿道という、尿の通り道(尿路)が細菌に感染して炎症を起こす病気の総称ですが、「腎盂腎炎」「膀胱炎」「尿道炎」などがそうです。
 通常、尿路は常にオシッコが勢いよく流れることで、細菌を洗い流し、体内に侵入するのを防いでいますが、排尿障害が起き、オシッコがうまく出なくなると、尿道から侵入した細菌が尿道や膀胱の粘膜に取り付いて、膀胱炎や尿道炎を引き起こしてしまいます。そのため、オシッコをするときに痛みを感じたり(排尿痛)、下腹部に不快感を感じて頻尿になったり、ときには血尿が出たり、高熱を発したりするのです。
 さらに、その細菌が腎臓まで入り込んで「腎盂腎炎」になって、高熱、背中の痛み、吐き気などの症状を起こすことがありますし、前立腺に入り込んだ細菌のせいで「急性前立腺炎」になってしまうこともあります。
 こうした尿路感染症は、抗生物質の投与で治療することができますが、排尿障害のある人は、少なくとも二〜三か月に一度は検尿して、感染症になっていないか調べるようにしたいものです。

■前立腺肥大症と間違えやすい病気

 前立腺肥大症が直接命にかかわる病気ではないからと、甘く見てはいけません。放置しておくと、腎臓障害を起こし、最終的に命にかかわる事態になることもあるからです。
 それに不快感を抱えて、イライラと毎日を暮らすより、スッキリとした気持ちで生活したほうが、どんなに幸せかは言うまでもないことです。ですから、できるだけ早い治療をおすすめするのです。
 また、前立腺肥大症と同じような症状でも、まったく違う病気になっている可能性もあります。ここでは、そんな病気について説明しておきましょう。

膀胱炎
膀胱炎とは、大腸菌、腸球菌などの細菌が尿道から侵入して、膀胱に達して炎症を起こす病気です。誘因としては、尿をがまんする、便秘、尿道狭窄(きょうさく)などが考えられます。
症状としては、尿が近い「頻尿」、尿がにごる「尿混濁」、排尿の終わりに痛みがある「排尿痛」などのほかに、「残尿感」「下腹部不快感」「膿尿」「血尿」「タンパク尿」などが認められます。
(1)急性単純性膀胱炎
 細菌感染による急性炎症です。大腸菌などの細菌が尿道から膀胱に侵入して発症します。一般には二〇代、三〇代の女性に多く、性交、妊娠、出産、排尿の我慢、冷え、感冒、便秘などが誘因となりますが、男性も前立腺肥大症になっているような場合にはかかりやすい状態になっていますから注意が必要です。排尿痛、頻尿、残尿感に加えて、発熱、腰部痛がある場合は、「腎盂腎炎」を合併していることも考えられます。
 治療は抗生物質、化学療法薬を使用します。また、水分を十分にとり尿量を増やすことを心がけるようにします。
(2)慢性膀胱炎
 明らかな基礎疾患を発見できずに慢性に経過する膀胱炎です。これも中年の女性に多い病気ですが、基本的には急性膀胱炎と同じ症状を訴えます。
(3)複雑性膀胱炎
 前立腺肥大症をはじめとする病気や、感染防御機構を有する正常尿路粘膜を破壊する膀胱がん、結石、異物の存在などにより起きる膀胱炎です。原因となる菌はセラチア、緑膿菌、腸球菌、エンテロバクターなどが多く、複数の菌が感染してなかなか薬が効かないこともあります。

尿道炎
尿道炎も細菌および病原微生物による尿道の感染症です。男性の場合、一般に性行為を介して感染し、淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎とにわけられます。
性行為と無関係な非淋菌性尿道炎は、尿道以外の尿路感染症、細菌性前立腺炎、尿道狭窄、包茎を合併している場合などで、ほとんどが慢性に経過します。
 症状としては、尿意が頻繁に起こり、血尿や排尿時痛を伴います。また、外尿道口からの膿性分泌物が出るなどの症状がみられます。治療は、原因となっている細菌を突き止め、効果のある抗生物質を投与して行います。

尿路結石
尿路結石とは、腎臓、尿管、膀胱、尿道にできる結石のことです。結石は、砂粒のように小さなものから、腎盂全体を占める大きなもの(さんご珊瑚状結石)までありますし、一個だけでなくいくつもできることもあります。
結石ができた場所によって、腎杯結石、腎盂結石、尿管結石、膀胱結石などの名前がついていますが、尿管結石のほとんどは、最初に腎杯か腎盂にできた結石が尿の流れで落ちてきたものです。また、膀胱結石には、尿管から落ちてきたものが大きくなったものや、初めから膀胱内でできたもの、虫など何らかの異物が膀胱に入ってそれが核となって結石となったものなどがあります。
この病気は、尿の流れを阻害することによる非常に強い痛みを伴います。とくに尿管結石の場合、七転八倒するほどの痛みを訴えることが少なくありません。
なぜ結石ができるのかは、まだよくわかっていませんが、尿の停滞や細菌の感染、手術時の糸など尿路の異物、代謝異常などが結石をつくりやすくしていると考えられます。痛風の患者さんにも結石が見られ、尿酸のコントロールが重要です。また、予防として、食後に、カルシウムとして牛乳をコップ一杯飲むことをお奨めします.
治療法は、結石のある部分や大きさ、成分、尿路の形態によって異なりますが、その大きさが一〇×五ミリ以下の場合、鎮痛剤などで痛みを抑えながら、利尿剤を使って、自然排出されるのを待つのが一般的です。
それでも出ない場合は、体外から衝撃波を当てて結石を破壊します(ESWL)や内視鏡を入れて結石を砕いて治療します。切石術などの開腹手術は、最後の手段です。

尿道狭窄
 尿道(膀胱から外尿道口の間)が狭くなることにより起こる病気で、先天性と後天性に分かれます。先天性のものは、生まれつきの形態異常ですが、後天性のものには、たとえば、交通事故で尿道を傷つけるなどの外傷がきっかけで起こるものや、尿道炎などで激しい炎症を起こした後の後遺症として起こるもの、尿道や膀胱部の内視鏡操作やカテーテル挿入のために起こるものなどがあります。また、前立腺肥大症との合併例もみられることも少なくありません。
 症状や合併症の程度によって治療法は異なりますが、尿道ブジーといって、金属あるいは硬質ゴムなどの棒を尿道に通し、徐々に拡張していく方法と、内視鏡を使う内尿道切開術が代表的な治療法ですが、狭窄の程度の強い場合など、尿道形成術という手術が必要となることもあります。


前立腺炎
日本泌尿器科学会のアンケート調査によると、年間六〇万〜一〇〇万人ほどの前立腺炎患者が発生していると推定されていますが、大きくは急性前立腺炎と慢性前立腺炎にわけられます。
(1)急性前立腺炎
体内に侵入してきた細菌が前立腺に感染して起こる病気で、前立腺が炎症のために充血して腫れ上がってしまいます。
思春期以降の男性になら年齢に関係なく起こりますが、前立腺肥大症になった人が合併して起こすケースが圧倒的に多いようです。また糖尿病の人が、細菌への抵抗力が弱くなっているために、かかりやすいという傾向があります。
症状は尿道、会陰部の痛みなどですが、とくに排尿の終わりに熱感や痛み(排尿痛)や残尿感を感じ、頻尿になります。尿は濁り、排尿の終わりに血尿が出たり、尿道から膿が出ることもありますし、高熱を伴い、食欲不振などの全身症状も生じます.
 症状が軽い場合は、外来で、経口薬を出して治療しますが、高熱で症状が重い場合、入院が必要となります。点滴を行い、細菌に有効な抗生物質を使用しますが、熱が下がるのに四〜五日ほどかかります。
また、菌を完全にやっつけるのはなかなか難しく、退院後も飲み薬を二〜四週間は続ける必要があります。指示された薬剤はきちんと服用し、水分を多めにとってオシッコの量を増やします。急性前立腺炎のうちにきちんと治しておかないと、やっかいな慢性前立腺炎になるので、医師がよいと言うまで治療に通うことが肝心です。
(2)慢性前立腺炎
 前立腺の炎症が慢性的に続いている状態で、細菌性のものと非細菌性のものに分類できます。
細菌性の場合、腸内細菌の一種であるグラム陰性細菌が原因となっているケースがもっとも多いといわれていますが、最近ではクラミジア、トリコモナスなどの性感染症によるケースも増加しているので注意が必要です。
症状としては、会陰部や下腹部、陰嚢部などに鈍痛や不快感を感じ、頻尿、排尿痛、残尿感などもみられます。射精前後に痛みが起こることもあります。
治療は急性前立腺炎同様、抗生物質の服用が中心となりますが、それと同時に、患者さんになるべく大量の水分を摂取してもらい、大量のオシッコで前立腺の病変部を洗い流します。さらに、病状を悪化させる便秘を防ぐために、食事等にも注意を払います。
また、指を直腸に入れて前立腺をマッサージして、中に溜まっている膿などの分泌物を排出させます。射精にも同じ効果があり、週一〜二回行うように勧めている医師もいます.
細菌性の慢性前立腺炎の場合、四〜一二週間程度、抗生物質を投与しますが、検査で細菌が見つからず、非細菌性前立腺炎だと診断された場合でも、潜在性の細菌感染の可能性があるので、四〜八週間程度、抗生物質を投与するのが一般的です。


膀胱頸部硬化症
 膀胱の出口と尿道の部分を膀胱頸部と呼びますが、そこで線維化して硬くなるために、オシッコが通りにくくなってしまう病気です。なぜ、そうなるのか、原因は不明ですが、五〇〜六〇歳の男性に多く見られ、残尿感、排尿困難、尿意切迫など、前立腺肥大症とよく似た症状を示します。
治療としては、尿道狭窄の治療で使われる尿道ブジーを使ったり、膀胱頸部の緊張をとるための薬剤投与などを行いますが、それでも、治せない場合は、
低侵襲性治療としての高温度治療や、主に、内視鏡手術を行うことになります。


前立腺結石
前立腺の中で、分泌液が石灰化して結石ができる病気です。前立腺肥大症や前立腺炎などの検査のために行われるX線撮影などで偶然発見されることが多く、成人男性のほとんどがなんらかの前立腺結石を持っているといわれていますが、大部分は無症状で、治療が不要な場合がほとんどです。
 ただし、まれに結石が尿道の壁を破って、尿道に入り込んだりしたときや、結石が何らかの感染を起こして、前立腺炎を起こす場合があり、そういう場合には、内視鏡手術などで取り出すことが必要となります。



■急増している前立腺がん
 
前立腺がんは、もともと欧米では男性がん死亡者の約二〇%を占めるほど頻度の高い病気です。それに対して、わが国の死亡者数は約三・五%で、日本人は前立腺がんにはなりにくいといわれていたほどです。
しかし、最近になって、前立腺がんの患者さんが急激に増加しています。
一九七五年に前立腺がんになった患者さんの数はわずか二〇〇〇人ほどにすぎなかったのが、一九九六年には一万二〇〇〇人を越えてしまいました。亡くなった人の数も同様です。厚生労働省の人口動態統計によると、人口一〇万対の死亡率は一九八〇年にはわずか三人だったのが、二〇〇一年には一二・四人と四倍以上に増えています。

 なぜ、このように前立腺がんで亡くなる人が急増しているのでしょうか? 
まず考えられているのが、高齢者の増加です。そもそも、前立腺がんも前立腺肥大症と同様に加齢によるホルモンバランスのくずれが、関係しているのではないかと考えられています。つまり、歳をとること自体が前立腺がんの危険因子の一つとされているわけです。そして前立腺肥大症と同様に、五〇歳ぐらいから発症頻度も急激に高くなっていきます。つまり、多くの人が他の病気で亡くなることなく、長生きするようになったために、相対的に前立腺がんで亡くなる人が増えてきたというわけです。
 また、食生活の変化が原因になっているともいわれています。日本人の食生活が欧米型になり、高たんぱく、高脂肪の食事が増えたことが大きな要因になっているというのです。
 もう一つは、がん検診で発見されるケースが増え、統計的な数字が押し上げているのではないかという意見もあります。前立腺がんは、早期の段階ではほとんど自覚もなく、進行も遅い病気ですが、がん検診の必要性が知られ、多くの人が積極的にがん検診を受けるようになったために、腫瘍マーカーとして、PSA(前立腺特異抗原)の採血による前立腺がんも多く発見されるようになってきたというわけです。前立腺がんも、ほかのがんと同様に、早期のうちに見つければ、それだけ治癒率も高くなりますから、もし、がん検診のせいで前立腺がんの患者さんが増えているということなら、それはそれで結構なことだと思います。


【囲み】これだけは聞いておきたい素朴な疑問
Q3 前立腺肥大症と言われましたが、前立腺がんになってしまうのではないかと心配です。前立腺肥大症が前立腺がんに進行することはありませんか?
A 確かに前立腺がんと前立腺肥大症は、症状に似ているところがありますし、前立腺肥大症ではないかということで調べているうちに、前立腺がんが発見されるということも珍しいことではありません。しかし、この二つはまったく異なる病気であり、前立腺肥大症から前立腺がんになることはありません。
 まず前立腺肥大症は良性の腫瘍で、転移するようなことはありません。極論するなら、頻尿や排尿障害の不快ささえがまんできるなら、ほおっておいてもいいのです。
 一方、前立腺がんは、悪性の腫瘍で、ほおっておくと、リンパ節や骨盤、脊髄などに転移して、最後は患者さんの命を奪ってしまいます。ですから、前立腺肥大症以上に積極的な治療が必要になるわけです。
 と、いうわけで、前立腺肥大症だからといって、がんになるのではないかと怖れる必要はありません。しかし、五〇歳を超えた人の場合、前立腺の肥大がはじまると同時に、前立腺がんが発生する可能性も高くなっていることは忘れてはいけません。前立腺肥大症の検査を受けるときには、ぜひ、前立腺がんの検査も同時に受けるようにしてほしいものです。


【囲み】どうしても聞いておきたい素朴な疑問
Q4 前立腺ドックというものがあると聞きましたが、どんな検査をしてくれるのでしょうか。また、費用はどれぐらいかかりますか?
A 前立腺肥大症や前立腺がんについての知識が普及するにつれ、積極的に検診を受ける人が増えています。また、それにつれ、多くの病院で前立腺ドックを実施するようになってきました。
 前立腺ドックでは、まず血液検査、直腸検査、超音波断層検査(エコー検査)、MRI検査(磁気共鳴画像法)などが行なわれます。そして、その検査で異常が見つかると、経直腸的超音波検査や前立腺生検などを行い、疾患が良性(前立腺肥大症)なのか悪性(前立腺がん)なのかを確定します。
 検査項目は医療機関によって若干異なりますが、費用は二〜三万円程度というのが一般的なようです。また、人間ドックのオプションとして実施しているところもあります。



第三章

前立腺肥大症と前立腺がんの検査法

■前立腺を調べるなら泌尿器科

 どうもオシッコのキレが悪くなってきたから、一回病院で診てもらおうかな……でも、いったいどんな病院に行けばいいのだろうと、戸惑って人もいるかもしれません。
 基本的に、前立腺を診てもらうには「泌尿器科」のある医療機関に行く必要があります。泌尿器科が扱うのは、腎臓から尿道までの尿路と、男性の生殖器や生殖機能に関する疾患です。ですから、男性に原因がある不妊や勃起不全症(ED: Erectile Dysfunction)の治療も行います。
 どうも、そうしたことから、泌尿器科に足を運ぶことをためらう人もいるようですが、医師は守秘義務を負っていますから、患者さんの秘密が漏れるようなことはありませんし、そもそも、前立腺肥大症は、元気に生きてきたからこそ出てくる男の勲章≠フような病気なのですから、恥ずかしがらずに気楽に足を運んでほしいものです。

■泌尿器科で行われる前立腺肥大症と前立腺がんの主な検査

 病院の外来に行くと、まず最初は問診から始まります。年齢や家族構成、既往歴、症状などから、どんな薬を服用しているかなどを聞くのです。
 さらに、詳しく自覚症状を把握するために、第一章で説明した「国際前立腺症状スコア」(IPSS: International Prostate Symptom Score)や、排尿に関する満足度(QOL)スコアを参考にします。
 そのうえで、非侵襲性の検査として、直腸内指診、超音波断層検査(エコー)、尿流量測定検査、残尿測定、尿検査、血液検査を行います。
 さらに、手術適応の判断のために侵襲性の検査として、膀胱内圧検査、尿道内圧検査、X線検査、CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像法)が必要に応じて行われます。
 前立腺がんの診断の際には、骨転移に精密検査のために骨シンチグラフィーを行います。


超音波断層検査(エコー)
 患部に超音波を当てて、反射してきた超音波の強さを画像にして診断します。
 お腹の上から、超音波をあてる「経腹的超音波断層検査」、肛門からプローブという棒状の超音波発信装置を挿入して調べる「経直腸的超音波断層検査」などが行われますが、最近では患者さんの負担が少ない「経腹的超音波断層検査」が一般的になっています。
《前立腺肥大症の超音波断層写真を入れたい!!!!!1ページ大》

直腸内指診
 医師が患者さんの肛門から直腸内に指を入れて、直腸の壁ごしに前立腺に触れて、形や大きさ、固さなどを診断します。どうも、この検査に抵抗感を覚える患者さんが多いようですが、医師は手袋をした人差し指にゼリーをつけ、静かに指を入れますし、何より、この直腸内指診で、前立腺肥大症や前立腺がんの七〇〜八〇%はわかるといわれており、経験を積んだ医師なら、一度で確実な診断が下せるので、気楽に受けてほしいものです。


尿流量測定検査
 オシッコの出る勢いを調べるための検査です。患者さんに、センサーのついた専用の便器で実際にオシッコをしてもらって調べますが、一秒間あたりのオシッコの量が自動的に曲線グラフになって出てきます。
 ちなみに、軽症の人なら一秒間に出るオシッコの量は一五ミリリットル以下、中等症の患者さんは一〇ミリリットル以下、重症だと五ミリリットル以下となっています。


尿検査
 検査では、排尿をはじめてしばらくたった中間尿を採り、尿の色やにごりをチェックして、出血や膿の有無を調べます。さらに尿たんぱくや尿糖、尿に含まれている赤血球や白血球、細菌の有無なども調べ、それらの情報を病気の特定に役立てます。

血液検査
最近では、血液中のPSA(前立腺特異抗原)を調べることで、前立腺がんの発見がより正確にできるようになってきました。PSAは、腫瘍マーカーとも呼ばれるたんぱく質の一つです。
そもそも、体内に腫瘍が発生すると、その腫瘍は特殊なたんぱく質を放出しますが、腫瘍の種類によって、放出するたんぱく質も違っています。つまり、どんなたんぱく質(腫瘍マーカー)が血液中に含まれているかを調べることで、どんな腫瘍ができているのか診断できるわけです。
そして、前立腺肥大症や前立腺がんの腫瘍が放出するたんぱく質がPSAであり、PSA値が高い人は、前立腺肥大症や前立腺がんである可能性が高いということになります。
 通常は、PSA値が10以上の場合に、前立腺生検によるがんの確定診断が行われていますが、PSA値が4〜10の場合は、グレーゾーンと称して注意深い観察が必要で、泌尿器科専門医の受診を奨めます。
 ちなみに、PSAは、もともとごく少量は健康な人の血液にも含まれていますし、加齢とともに増加します。ですから、五〇歳になったら、できれば半年ごとに、この検査を受けて日ごろから自分のPSA値を調べておくようにしたいものです。


膀胱内圧検査
 尿道から膀胱までカテーテルを挿入し、水や炭酸ガスを流し込みます。そして、その量に対して、膀胱の内圧がどの程度あるか、またはどの程度まで入れると内圧が不安定になって膀胱が収縮しなくなるかなどを調べます。一〇〇〜一五〇ミリリットル程度で膀胱の収縮が始まるようなら、排尿障害が起きていると診断されます。

尿道内圧検査
 この検査は、膀胱内圧検査と同時に行われるのが一般的です。膀胱に挿入するカテーテルに圧力を検知するセンサーをとりつけておき、カテーテルを引き抜くときの圧力の変化を調べるのですが、前立腺肥大症などで、尿道に圧力がかかっている部分では高い数値が検出されます。


X線検査
X線検査は、患部をX線で撮影して調べるものですが、患部を直接撮影する「単純X線検査」では、膀胱結石、前立腺結石、前立腺がんの骨盤への転移などを見ることができます。
尿道や膀胱を詳しく調べるために行われるのが、「尿道膀胱造影」です。尿道口から造影剤を注入して、X線撮影を行い、尿道や膀胱の形状を調べます。前立腺の肥大や前立腺がんなどが、尿道や膀胱のどこかを圧迫していないか調べるわけです。
腎臓、尿管、膀胱の形を調べるためには、「静脈性腎盂造影」を行います。静脈から造影剤を注射して、五分後、一〇分後、一五分後と、順を追って撮影することで、造影剤がオシッコの中で排出していく状態を撮影でき、尿路の状態を見ることができるのです。


CT・MRI
CT(コンピュータ断層撮影)は、X線を出す装置を患者さんの体の周囲で回転させながら連続して撮影し、その結果をコンピュータで処理して、患部の断層画像を得るという技術です。
また、MRI(磁気共鳴画像法)は、患者さんを強い磁場の中に置き、水素原子などが共鳴する様子のデータをとって、コンピュータで画像化するという技術です。いずれも最新の技術を駆使した診断法ですが、これらの技術を駆使することで、さらに詳しい診断が行えるようになってきました。


骨シンチグラフィー
 これも最新の診断技術の一つです。弱い放射線を発する医薬品(放射線同位元素:ラジオアイソトープ)を注射し、放出する放射線を特殊カメラで撮影します。薬品を静脈注射し、3時間以降に撮像しますが、撮影時間は全身像が約20分、スポット像が約7分です。前立腺がんが骨盤や腰椎などの骨に転移していないかどうかを調べるのに使われます。


【囲み】どうしても聞いておきたい素朴な疑問
Q5 最近、オシッコの色が濃くなってきたような気がします。前立腺肥大症のために血尿が出ているのではありませんか。
A 通常、尿の色は、ビールを薄くした程度の黄色で透明です。しかし、個人差がありますし、どれぐらい水分をとったか、またどれぐらい運動したかなどによっても変わってきます。ちょっと濃くなったからといって、それほど心配する必要はありません。濃い褐色をしたオシッコが出たとき、血尿ではないかと心配する人もいますが、実は、血尿も見た目でわかることはほとんどありません。試薬を使ってはじめてわかるのが大半です。ただし、目で見てわかるほどの赤色の尿が出たときは、すぐに病院に行ってください。がんなどの重篤な病気が起こっている可能性があります。また、尿が白く濁ったような場合も、一度、診てもらったほうがいいでしょう。尿路になんらかの炎症が起こって、壊れた組織が尿に混じり込んでいる可能性があります。




第四章 前立腺肥大症を切らずに治すPART1
薬物療法最新治療情報

■治療するかしないかは、患者自身の気持ちが第一

 検査の結果、前立腺肥大症であることが確定されたら、いよいよ治療に取り掛かりますが、そもそも治療する必要があるかどうかを判断するには、患者さんが排尿においてどの程度の苦痛を感じているかが、いちばん大きな判断基準になるといっていいでしょう。
 第一章で、国際前立腺症状スコアと満足度(QOL)スコアについて説明しましたが、国際前立腺症状スコアの結果がまったく同じであっても、人によって満足度(QOL)スコアが違うことはままあることです。
 また、いろいろと調べて同じ検査結果であっても、「なあに、歳をとったらこんなもんさ。とくに不満もないよ」という人もいれば、「若いときには、こんな情けない状態じゃなかった。いまの状態が不満でたまらない」と感じる人もいます。
 ですから、前立腺肥大症があっても、症状が軽い場合は、まず、とくに治療を行わず、しばらく様子をみることも少なくありません。

■切らずに治す≠ェ主流になってきた

 かつては、前立腺肥大症の治療というと、なにはともあれ、開腹手術をするのが一般的でした。それ以外に有効な治療法がなかったことと、前立腺肥大症が治療可能な病気であることがあまり知られておらず、病状がかなり進行してからでないと病院に行かなかったために、手術せざるを得ない場合が多かったということも原因として挙げられるでしょう。
 しかしいまでは、よほどの重症でなければ、まず薬による治療を試みて、手術は最後の手段にするという考え方が一般的になってきました。また、手術にしても、かつてのように開腹して手術するのではなく、尿道から内視鏡を使って前立腺を切除する手術(TURP)や高温度治療などの低侵襲手術が主流となって、切らずに治す℃梠繧ニなっているのです。
 とはいえ、薬で治すには、効果が上がるまで時間がかかります。また、よく効く薬ほど副作用が強いというマイナスもあります。
 それに対して手術は即効性があり、患者さんはすぐに不快な症状から解放されます。しかし、内視鏡手術にしろ、開腹手術にしろ、入院しなければなりませんし、体にメスを入れるために出血や感染症の心配に加え、心身の負担も大きくなります。
 これに対して、最近、体への負担が少ない経尿道的高温度治療などの低侵襲性治療法が、いろいろと開発されています。しかし、特別な装置を必要とするため、実施できる医療機関は限られています.これらの方法は、出血を伴わないため高齢者や心筋梗塞などで抗凝固剤をのんでいる患者さんにも施行できます。いずれの方法を選択するにしても、プラス面とマイナス面があるというわけです。
 そういう意味でも、どういう治療を選択するかは、医師に十分説明してもらい、納得したうえで決めるようにしたいものです。
 排尿障害の治療には、お薬による治療法(薬物療法)と、外科的な治療法(手術療法)があります。第一章で示しました、国際前立腺症状スコア(IPSS)で、おおむね、8〜19点であれば、薬物療法が対象となりますが、20点以上の場合は手術療法が必要になることもありますのでご参考にしてください。


■まずは前立腺肥大症の不快な症状を薬で改善する

 できれば、手術を受けずに治してしまいたいというのが、大半の患者さんの偽らざる気持ちでしょう。そこでまず、前立腺肥大症に薬物療法について説明しましょう。
ここでは、保険が適用される代表的なものを紹介します。また、同じ成分を含んでいる薬も紹介しておきます。医師や薬剤師から渡された薬がどれなのか、確認して、十分効果を理解したうえで、服用することをおすすめします。
*     *     *
平成11年度の厚生労働省医療技術評価総合研究事業として作製された、「前立腺肥大症の診療ガイドライン」では、以下の「α1ブロッカー(交感神経α1受容体遮断薬)」を標準的治療薬として指摘しています。


 標準的治療薬としての「α1ブロッカー(交感神経α1受容体遮断薬)」は、血圧を上げる仕組みである交感神経系に存在する「α1受容体」という部分を抑えて(ブロックして)、血管を拡げ、血圧を下げる作用があることかせ、高血圧患者の血圧を下げるために用いられていますが、交感神経が興奮することで膀胱の尿の出を抑えている筋肉の緊張をゆるめ、尿を出やすくすることから、前立腺肥大症の治療にも使われています。交感神経に作用して、前立腺の筋肉に緊張を取り除くことで、尿道が広がり、排尿が楽になるのです。
ただし、この薬は大きくなった前立腺を小さくするものではありませんし、血圧を下げる作用もあり、「めまい」「立ちくらみ」などの副作用が出ることもあります。
 このα1ブロッカー(交感神経α1受容体遮断薬)には、塩酸タムスロシンカプセル、ナフトピジル錠、ウラピジル徐放性カプセル、塩酸テラゾシン錠、塩酸プラゾシン錠などがありますが、いずれも病気そのものを治すものではありません。


【α1ブロッカーの作用】
 前立腺には平滑筋という筋肉が集まっていますが、この筋肉は交感神経の働きによって収縮して、尿が漏れるのを防ぐ働きをしています。しかし、前立腺肥大症の患者さんの場合、その緊張のために排尿障害がいっそうひどくなってしまいます。そこで、交感神経→α1受動体→平滑筋という信号の流れを遮断することで前立腺の緊張をゆるめ、尿道を広げようというのが、α1ブロッカーの狙いです。ちなみに、交感神経からの信号を前立腺の組織が受け取る場所は受容体と呼ばれ、αとβの二種類があり、平滑筋の緊張に関係しているのはα受容体のほうです。α1ブロッカーは、このα受容体をブロックし、信号を遮断することで、平滑筋の収縮による前立腺の緊張をゆるめ、尿道を拡げ、排尿障害を改善するわけです。

塩酸タムスロシンカプセル
●商品名:ハルナール
 塩酸タムスロシンを成分とする薬です。作用等は他のα1ブロッカーと同様ですが、他の薬と併用してもとくに問題ないと考えられています。とはいえ、念のために医師と相談しながら服用するようにしてください。

ナフトピジル錠
●商品名:フリバス錠
 ナフトピジルを成分とする薬です。作用等は他のα1ブロッカーと同じですが、塩酸テラゾシン錠と同様に、とくに利尿剤、他の降圧剤と併用すると作用が強めることがあるので必ず医師と相談しながら服用することが必要です。
★同じ成分の薬として、アビショットがあります。
 


ウラピジル徐放性カプセル
●商品名:エブランチル
 ウラビジルを成分とする薬で、やはりα1受容体をブロックすることで、排尿障害を改善します。副作用等は、塩酸プラゾシンと同様です。

塩酸テラゾシン錠
●商品名:ハイトラシン錠
 塩酸テラゾシンを成分とする薬です。作用等は他のα1ブロッカーと同様ですが、とくに利尿剤、他の降圧剤と併用すると作用が強めることがあるので必ず医師と相談しながら服用してください。
★同じ成分の薬として、バソメット錠があります。

塩酸プラゾシン錠
●商品名:ミニプレス錠
 塩酸プラゾシンを成分とした薬です。尿の出を抑える役割をもつ筋肉の緊張をゆるめ、尿を出やすくします。ただし、血圧が急に低下してめまいや立ちくらみを起こすという副作用が出ることがあるので注意が必要です。また、他の薬と併用すると、その薬の作用を強めたり、副作用が出たり、この薬自体の作用が強まったり(弱まったり)することがあるので、必ず医師と相談して服用しなければなりません。
★同じ成分の薬として、イセプレス錠、エンゾシン錠、カチレット錠、クインプレス錠、コルトック錠、ストローケン錠、ダウナット錠、ダウンプレス錠、ダルダノン錠、トラブソン錠、フラボイド錠、ミズビロン錠などがあります。

*     *     *
 ここまで説明してきた薬が、あくまでも排尿障害を改善するためのものであり、前立腺そのものを小さくすることができなかったのに対し、これから説明する「抗アンドロゲン剤」はホルモン系の薬剤で、肥大した前立腺を縮小させる目的で投与されます。
 第二章で述べたように、なぜ、歳をとるとともに前立腺が肥大していくのか、そのメカニズムは完全には解明されていませんが、テストステロンという男性ホルモンが深く関係しているらしいことはわかっています。どうやら、精巣から血液中に分泌されたテストステロンが前立腺に取り込まれ、DHT(ジヒドロテストステロン)という物質に変わり、前立腺の組織にある受容体と結びつくことで前立腺の一部が増殖し、肥大がはじまるようなのです。
 そこで、かつては、女性ホルモンや男性ホルモンを投与する治療が盛んに行われたことがありました。しかし、女性ホルモンの投与は性欲の減退や女性化という副作用がありましたし、男性ホルモンの投与も初期の段階では排尿障害や残尿感の改善にかなりの効果があるものの、前立腺がんなどを併発していた場合、その増殖を促進させるなどのマイナス面があったために、あまり行われなくなっています。
 そして、現在、中心になっているのが、前述の「抗アンドロゲン薬」を用いたものということになります。
これは、女性ホルモン「プロゲステロン」が男性ホルモン「アンドロゲン」の働きを抑える性質を利用してつくった「抗アンドロゲン薬」を投与することで、前立腺が肥大しないようにするという治療法で、「抗男性ホルモン剤」治療とも呼ばれ、酢酸クロルマジノンやアリルエストノレールなどの薬剤が使用されています。人によって効果があらわれなかったり、勃起力の低下、性欲の減少といった副作用がみられることがありますが、副作用はかなり少なくなっています。
 これらの抗アンドロゲン剤は、服用開始後、約二週間で排尿障害が緩和されますが、四〜一六週間のみ続けることで、約二〇〜三〇%の患者さんの前立腺が縮小しますが、服用をやめると、治療前の大きさに戻ってしまうといわれています。まずはいま感じている不快な症状を取り除くことが最大の目的で、症状を和らげた後は、より副作用の少ない薬へと移行していくのが一般的です。
 なお、本薬剤は血清PSA(前立腺特異抗原)を低下させることから、潜在する前立腺がんが合併している場合には、その早期発見を困難にする可能性があり長期に服用する時には注意を必要となります。。


酢酸クロルマジノン
●薬品名:プロスタール錠
 酢酸クロルマジノンを成分とする薬です。男性ホルモンの作用を抑え、前立腺が肥大するのを防ぎ、前立腺肥大症の症状を改善します。他の薬との併用もとくに問題はないと考えられていますが、念のために医師と相談すること。また、前立腺の肥大を防ぐ効果はありますが、前立腺肥大症の原因そのものを治すものではありません。
★同じ成分の薬として、アプタコール錠、ヴェロニカ錠、エフミン錠、キシリノン錠、クロキナン錠、ゲシン錠、サイテラス錠、サキオジール錠、酢酸クメルマジノン錠、ジルスタン錠、ナロット錠、パパコール錠、プラクサン錠、プレストロン錠、プレニバール錠、ルトラール錠、レコルク錠、ロンステロン錠などがあります。

アリルエストノレール
●薬品名:パーセリン錠
 アリルエストノレールを成分とする薬です。この薬も男性ホルモンの作用を抑えて大きくなった前立腺を直接縮小させ、膀胱や尿道への負担を減らし、排尿困難、残尿感をやわらげ、予感の排尿回数減らすなどの効果があります。また、他の薬との併用もとくに問題はないと考えられているものの、念のために医師と相談するべきこと。また、前立腺の肥大を防ぐ効果はあるが、前立腺肥大症の原因そのものを治すものではないことは、酢酸クロルマジノンと同様です。
★同じ成分の薬として、アペゼール錠、アランダール錠、アリルエストレノール錠、アロセリン錠、エルモラン錠、コバレノール錠、サルミコール錠、デカセリン錠、プロスコ錠、ペリアス錠、メイエストン錠などがあります。

*     *     *
その他、前立腺の肥大がまだ小さく、初期の段階であれば、副作用の少ない植物エキス製剤、アミノ酸製剤、漢方薬などを使う場合もあります。


植物エキス製剤
●薬品名:エビプロスタット
 オオウメガサソウ、ハコヤナギ、セイヨウオキナグサ、スギナなどの植物エキスからつくられている、ドイツで開発された薬です。前立腺の肥大による排尿障害に効果を示し、尿の出をよくし、トイレに行く回数を減らし、残尿感を改善します。ただし、この薬は前立腺肥大症の原因そのものを治すものではありません。
★同じ成分の薬として、エピカルス錠、エルサメット錠、コスモベック錠、トリピシッド錠、ナーセット錠、ハルーリン錠などがあります。

セルニチンポーレンエキス
●商品名:セルニルトン錠
 スウェーデンで採取された八種類の花粉のエキスから抽出したセルニチンポーレンエキスを成分とする薬です。前立腺肥大症や前立腺炎による排尿障害に効果を示します。前述の植物エキス製剤と同様に、トイレに行く回数を減らし、残尿感を改善しますが、この薬も前立腺肥大症の原因そのものを治すものではありません。
★同じ成分の薬として、アピポーレカプセルがあります。

アミノ酸製剤
●薬品名:パラプロスト
L-グルタミン酸(L-Glutamic Acid)、L-アラニン(L-Alanine) 、アミノ酢酸(Aminoacetic Acid)という三種類のアミノ酸を配合した薬です。この薬は、前立腺の肥大に伴う排尿障害、残尿および残尿感、頻尿を改善する薬ですが、前立腺肥大症の原因そのものを治すものではありません。
★同じ成分の薬として、アダックス、ウリプロス、バロメタンなどがあります。

漢方製剤
●薬品名:(八味地黄丸)ルビ・はちみじおうがん
 さまざまな生薬から抽出したエキスを混合した漢方薬で、前立腺肥大に伴う排尿異常などの症状を改善します。ただし、この薬も病気の原因そのものを直井ものではありません。
★前立腺肥大症に使われるもっとも一般的な漢方薬が、この八味地黄色丸ですが、そのほか、牛車腎気丸(ルビ・ごしゃじんきがん)、六味丸(ルビ・ろくみがん)、清心蓮子飲(ルビ・せいしんれんしいん)なども症状に応じて使われます。
*    *    *

  さて、泌尿器科では、患者さんの症状に応じて、ここまで紹介してきた薬をうまく組み合わせながら治療を行います。
 しかし、繰り返し述べてきたように、残念ながら、薬で前立腺肥大症を完全に治すことはできません。症状を改善し、それ以上、進まないようにするのが大きな目的なのです。
 こうした薬は長い期間にわたって、飲み続けることが必要です。医師と相談しながら、きちんと服用してほしいものです。ちょっとよくなったからといって、勝手に服用を止めてしまうと、それまでの苦労が無駄になってしまいます。

【囲み】どうしても聞いておきたい素朴な疑問
Q6 糖尿病を患っていますが、前立腺肥大症になりやすいのではないかと心配です。
A 糖尿病と前立腺肥大症には、直接的な因果関係はありませんから、糖尿病だからといって、前立腺肥大症になりやすいのではないかと、むやみに心配する必要はありません。
 ただし糖尿病が進行すると、免疫力が低下し、血糖や尿糖が増加するために、動脈硬化で血管がもろくなり、感染症にかかりやすくなってしまいます。その結果、尿道炎や前立腺炎、膀胱炎などの尿路感染症にもかかりやすくなり、もともと前立腺肥大症気味だった人は尿閉など起こしやすくなってしまうのです。
 糖尿病のコントロールが不良の場合、その症状として、多飲・多尿があり、結果として頻尿になりやすくなります。
 いずれにしても、糖尿病と診断された人は、医師の支持にしたがって、きちんと糖尿病の治療をしておくことが大切です。



第五章 前立腺肥大症を切らずに治すPART2
    経尿道的前立腺切除術・レーザー療法ほか


■メスを使わず、内視鏡で手術が可能  理想的な最新治療法〜


 かつて前立腺肥大症の名医といえば、手術がうまい医師のことを指していました。前立腺肥大症を治すといえば、なにはともあれ、開腹手術だという時代があったのです。しかし、ここまで述べてきたように、いまでは開腹手術は最後の手段となっています。
その代わり、ポピュラーになってきたのが、経尿道的前立腺切除術(TURP:Transurethral Resection of the Prostate)です。一九三〇〜一九五〇年ごろにかけて、アメリカで開発された技術で、日本には一九六〇年ごろに導入されました。
先端にループと呼ばれる電気メスをセットした内視鏡を、尿道から挿入し、患部のみを切除してしまいます。患者さんはメスを目にすることもなく、お腹を切り開く必要もないので非常に負担が少なくてすむわけです。
手術は、全身麻酔ではなく、下半身のみの麻酔で行います。医師は、内視鏡を通して送られてくる映像を見ながら、電気メスで患部を切除していきますが、その部分には痛みを感じる神経はありませんから、問題ありません。また、その際、出血した部分は電気凝固させ、出血は、内視鏡を通じて灌流液を注ぎ込んで洗い流していきます。
手術時間は約一時間で、切除終了後、膀胱内に落ちた組織を取り除き、止血できているかを確認したら終りです。切除した部分を保護と術後の出血を抑えるために、バルーンカテーテルを入れたままにしておきますが、一般的には術後の回復が順調なら、一〜二日後にはバルーンカテーテルをとり、一週間程度で退院することできます(最近では、患者さんの年齢や体調によっては、日帰りで手術をしてくれる医療機関も出てきているほどです)。
 このTURPは世界的にもスタンダードな治療法となっていますが、術後にいくつか注意しなければならないことがあります。
 まず、逆行性射精が起きることがあります。前立腺を切除した結果、膀胱と尿道の境界が広くなることで内尿道口の収縮力が弱くなり、射精したとき、精液が、尿道口ではなく膀胱内のほうに流れ込んでしまうようになるのです。そうなると、男性不妊症の原因になったり、性的な満足感が得られなくなることもありますから、改めて治療を受ける必要があります。
 また、手術直後は、前立腺内の傷口がむきだしになっていますから、排尿のときなどに出血することがあります。通常、出血は数日でおさまり、赤ワインにようなオシッコもやみますが、出血すると真っ赤にオシッコが出てきます。そういうときにはすぐに治療を受けなければなりません。
 また、二〜三%ではありますが、尿道狭窄を起こしてしまうこともあります。手術後に尿道が狭くなって、オシッコが出にくくなってしまうのです。術後の二〜三か月間に起きやすい症状ですが、これも尿道拡張の治療を受ければ、治癒します。
 ちなみに、前立腺の開腹手術による死亡率は三〜四%といわれていましたが、TURPによる死亡率は、諸外国のデータを調べてみると〇〜一・八%、平均でも一・二%だそうです。開腹手術と比べ、いかに安全なものであるかがわかります。
 最後に、TURPのメリットをまとめておきましょう。
@安全性が高い
A痛くない
B開腹しないので傷が残らない
C出血が少ない
D性機能低下が少ない
E手術後、早めに日常生活に戻れる
F入院期間が短いため費用も安い




■レーザー光線で患部を焼却
 
 レーザー光線で患部を焼却してしまうレーザー療法(経尿道的直視下レーザー前立腺切除術:VLAP)は、前述の経尿道的前立腺切除術(TURP)の技術を発展させたものです。
 電気メスの代わりにレーザー光線を出すプローブ(発振子)を内視鏡に取り付け、膀胱内に挿入、レーザー光線を照射して、前立腺の患部を凝固、壊死させてしまいます。
レーザー光線をあてられた患部は六五〜九〇度まで加熱され、炭化して、剥がれ落ちてしまいます。
 手術に要する時間はわずか一五分ほどで、尿道にカテーテルを入れておく必要があるため、三日ほどの入院が必要ですが、TURPより短い入院ですみます。
 一九九六年に保険適用になり、TURPとともに、一般的な治療法となりつつあります。
*    *    *
このほか、TURPを発展させた技術として、経尿道的超音波ガイド下レーザー前立腺切除術(TULIP)、経尿道的前立腺切開術(TUIP)、経尿道的前立腺蒸散術(TUVP)などもあります。表にまとめておきましょう。

《以下表にする》
●経尿道的超音波ガイド下レーザー前立腺切除術(TULIP)
 内視鏡の先端に超音波とレーザー光線を出すプローブを取り付けておき、膀胱内に挿入、超音波エコーで前立腺の肥大した部分を画像化して、それを観察しながら、レーザー光線を患部に照射して、焼却していきます。手術時間は約一五分で、三〜五日間の入院が必要です。
●経尿道的前立腺切開術(TUIP)
 内視鏡の先端に、ナイフ状になった電気メス(電極)を取り付け、前立腺の患部に数本の切れ目を入れるという術法。大きな前立腺肥大では不十分ですが、小さめの肥大症なら、これで十分な、排尿障害改善の効果を上げることができます。
●経尿道的前立腺蒸散術(TUVP)
 手術中の出血をできるだけ少なくしようと開発された術法。TURPのループ状の電気メスの代わりに回転する円筒状の溝付電極(ローラーループ)や厚手のループ電極を取り付け、TURPより高出力の高周波電流を流して、前立腺の患部の組織を蒸散させてしまおうという方法です。TURPの技術を用いて、レーザー治療と同じ効果を得ようと開発が進められています。

■その他、前立腺肥大症の治療法
 
 その他、開腹手術をせずに、前立腺肥大症を治療する技術を紹介しておきましょう。


尿道ステント留置法
 ステントと呼ばれる器具(らせん状やメッシュ状のものがある)を、尿道から、尿道の狭くなったところに入れて固定してしまう方法です。患者さんの全身状態が悪かったり、重篤な合併症があって手術ができないときなどに行われます。
 ステントは、体に害のないプラスチックや特殊な合金でつくられていますが、そうはいっても異物ですから、細菌がつきやすかったり、結石が付着したりするため、半永久的に入れっぱなしにしておくことはできず、数か月から数年で取り替える必要があります。



■開腹手術は最後の手段

 ここまで繰り返し説明してきたように、現在では、開腹手術は、最後の手段となっています。
 内視鏡手術では、十分な効果が期待できないほどあまりにも大きな前立腺肥大症である場合か、ほかに治療法がない場合に限られると考えていいほどです。
 日本で行われる開腹手術は、恥骨上式前立腺摘去術か恥骨後式前立腺摘去術のいずれかで行われるのが一般的です。恥骨上式なら、膀胱を開いて上から前立腺を摘出しますし、恥骨後式なら、開腹後、恥骨の後ろ側から前立腺の外側の膜を残して内部を摘出する手術なので2‐3週間の入院が必要です。
 医師ができるだけ切らずに治そうと努力を続けているのは、そうしたことを防ぐためなのです。



【囲み】どうしても聞いておきたい素朴な疑問
Q7 頻尿で困っています。水分の摂取を控えれば、トイレの回数を減らすことができますか?
A 基本的に前立腺肥大症による頻尿は、前立腺が肥大して膀胱を圧迫したり、尿路のどこかで炎症が起き、膀胱が刺激されることで起こります。つまり、膀胱に溜まるオシッコの量とは関係ないので、水分の摂取量を減らしても頻尿は治りません。
 むしろ、飲む水分量を減らすことで、血液が濃くなってしまうことのほうが問題です。血栓が詰まって脳梗塞になったり、脱水症状を起こして腎臓機能が低下してしまうこともありますから、気をつけてほしいものです。
 だからといって、あまりガブガブ飲んで、始終、膀胱を刺激するような状態を続けるのも、いいことではありません。一日、コップで五〜六杯の水を無理せずにとるようにしてください。



第六章 前立腺がんを治す最新治療法

■前立腺肥大症とそっくりな前立腺がんの初期症状
 
前立腺がんが増えていることは第二章でも触れましたが、この章では、前立腺がんの治療法について解説していきましょう。
まず前立腺がんの初期症状ですが、排尿困難、頻尿、残尿感、夜間多尿、尿意切迫、下腹部不快感など、前立腺肥大症とほとんど同じです(がんの大きさが小さいうちは、無症状のことも少なくありません。それも前立腺肥大症と同じです)。
そもそも、前立腺ががん細胞の増殖で大きくなり尿道を圧迫するのと、前立腺肥大症で、前立腺が大きくなって尿道を圧迫するのは、状態としては同じなのですから、初期症状がそっくりなのも当然です。
さて、がんが大きくなり、尿道を強く圧迫するようになると排尿困難が進み、尿閉になってしまいますし、尿管が閉塞状態になり、腎臓でつくられた尿が膀胱までうまく流れなくなるために、腎臓にたまって水腎症になり、背部痛などを訴えるようになります。
さらに、がんが尿道や膀胱内に拡がっていくと、膀胱刺激症状が強くなって尿失禁状態になったり、患部から出血して、血尿が出たり、精液に血が混じったり、EDなどの症状が出てくることもあります。
また、前立腺がんは進行するとリンパ節や骨に転移しやすいという特徴があります。リンパ節に転移して、その部分に疼痛が出たり、骨に転移して、弱くなった部分が骨折することもあります。骨転移しやすい部位は骨盤骨と腰椎、胸椎などです。
 腰椎への転移から前立腺がんが偶然に発見される場合もありますので、50歳を過ぎたら、しつこい腰痛の方は、一度、前立腺がんの精密検査をお受けになってください。
 そして、骨転移が広範囲に拡がると、うまく骨髄から血液を造ることができなくなり、貧血になり、全身の状態が悪化していくことになってしまいます。

■前立腺がんの検査

前立腺がんの検査法も第三章で述べたように、前立腺肥大症の診断とほぼ同じですが、最終的な確定診断は、経直腸または経会陰的針生検などといった方法で前立腺の組織を実際に採取し、顕微鏡で検査する病理診断で下されます。
そして、前立腺がんと診断した後は、がんがどこまで拡がっているか、病期を調べます。
血清PSA(前立腺特異抗原)の測定はもちろん、前立腺内および周囲への広がり具合は、経直腸的超音波検査の他に、腹部、骨盤部をCTやMRI検査で調べます。また、骨転移を調べるために骨シンチグラフィーやX線撮影を行います。さらに、がんが骨に転移すると骨が破壊され、血中のアルカリホスファターゼ(ALP)値が上昇するので、血液検査でその数値を調べたり、リンパ節転移や肺・肝などへの遠隔転移を調べるために、CTやMRIの検査も行います。

■前立腺がんの病期(ステ−ジ)

前述したようないろいろな検査結果をもとに、臨床病期が決められます。本書では、日本泌尿器科学会が用いている規約に基づいて説明しておきましょう。

病期A
がんではなく良性だと診断されたものの、手術で切除された組織を調べた結果、偶然に発見されたがん(偶発がん)のこと。
●A1:前立腺内に限局した一センチ以下の病変で高分化のがん(性質のおとなしいがん)をいいます。
●A2:前立腺内にびまん性に拡がったがん(一か所にとどまらず、拡がった状態のがん)、または中ないし低分化のがん(高分化に比べ悪性度の高いがん)をいいます。

以下の病期B、病期C、病期Dは、臨床的に前立腺がんが疑われ、吸引細胞診または針生検によって採取された細胞を調べた結果、組織学的にがんと診断されたものです。
病期B
がんが前立腺内に限局している段階をいいます。
●B1:左右の前立腺のうち、その片側に病変が限局している一・五センチ以下のがんをいいます。
●B2:前立腺内の一・五センチを超えるがん、またはびまん性や結節性に拡がるがん(かたまりとして発育する状態のがん)をいいます。
病期C
がんが前立腺被膜を越えて拡がっているものの、転移がみられない段階をいいます。ただし、前立腺に隣接している精嚢や膀胱頸部へ拡がっているがんも含みます。
病期D
臨床的に明らかに他の臓器へのみられる段階です。前立腺内でのがんの大きさは規定されていません。
●D1:骨盤内のリンパ節転移がみられるがんをいいます。
●D2:D1より広い範囲のリンパ節や骨、肺、肝臓などの離れた部位の転移がみられるがんをいいます。

■前立腺がんの治療

医師は、こうしたデータをもとに、がんのある場所と病期や年齢、それまでの病歴などを加味して、患者さんに対する治療方針を立てることになりますが、前立腺がんの治療法として、内分泌療法、外科療法、放射線療法、化学療法の四種類があります。
しかし、治療によって、がん細胞のみならず、同時に正常な細胞も障害を受けることは避けられません。医師はできるだけ副作用が出ないように努力しますが、それでも種々の症状があらわれることがあります。
ここではそれぞれの治療法と副作用について説明します。

内分泌療法
前立腺がんの治療として、この内分泌療法が、最も有効で基本となるとされています。
前立腺がんは、男性ホルモンの影響を受けて増殖することが多いがんですから、この男性ホルモンがつくられる過程を抑えるか、前立腺に作用しないようにすればよいわけです。95%の人は、この治療法によく反応します。
 従来から行われていたのは、男性ホルモンが多くつくられる精巣自体を摘除する方法(去勢術)です。麻酔で痛みをとり除き、下腹部や陰嚢部を切開して、両側の精巣をとり出します。
その他、男性ホルモンの働きを抑える作用がある女性ホルモン剤(エストロゲン)や抗男性ホルモン剤(アンチアンドロゲン)を一日に数回内服する治療法や、下垂体に作用して男性ホルモンを低下させる薬(LH-RHアゴニスト)を一か月、あるいは三か月に一回皮下注射する治療法もあります。いずれの方法も治療効果には差がありません。
 内分泌療法は年齢を問わずよく効く治療法ですが、抗がん剤や放射線療法のように細胞を殺してしまうわけではありません。細胞を仮死状態にする治療法とお考え下さい。内分泌療法には有効期間にかぎりがあり、一生効くというわけではありません。ただし、10%の患者さんには10年以上も効果があります。
【副作用】いずれの治療も性ホルモンバランスをくずし、女性の更年期障害と似た症状(発汗過多、手のこわばりなど)が出現することがあります。

(1)LH-RHアゴニスト
LH-RHアゴニストは、脳の一部である下垂体(前葉)に作用して、男性ホルモンを一度に大量放出させることにより、その後の男性ホルモンの働きを低下させ、前立腺がんの進行を抑えるという治療です。
はじめての注射の後、二〜三日間は男性ホルモンが急激に多くなるため、排尿困難、骨転移部の痛み、肺炎様の症状、全身のほてりなどがおこる可能性がありますが、症状は一時的です。ただし、一か月〜三か月に一度、注射を受けなければいけません。

  
(2)抗男性ホルモン剤
女性ホルモン治療と同様に、薬剤の種類や個人による差もありますが、過敏症、悪心、嘔吐、呼吸困難、女性化乳房、肝機能障害などがみられることがあります。副作用が出た場合は、他の薬剤による対症療法を施しますが、コントロールができないときには、投薬を中止して他の治療法に切り替えます。

(3)女性ホルモン剤
使用する薬剤の種類や個人による差もありますが、電解質代謝異常(体液のバランスや物質を変化させるバランスが異常をきたす状態)や、心電図の異常、過敏症、悪心、嘔吐、肝機能異常、ED、女性化現象、血栓症などが起きることがあります。
また、とくに気をつけたいのが、脳や心臓の血管への副作用です。
胸部痛、手足の浮腫、動悸、息切れ、立ちくらみ、手足のしびれ、または麻痺などが出てきたとき、そのまま放置していると命にかかわることがありますから、一刻も早く担当医に相談してほしいものです。他の薬剤で副作用を抑える処置をとりますが、コントロール不能と判断した場合は、他の内分泌療法に切り替えます

(4)去勢術
他の内分泌療法と異なり、三〜一〇日間の入院が必要です。手術は簡単で危険も少なく、術後出血がまれにおこる程度です。術後七日目くらいで抜糸し、その後は再発しない限り薬を飲む必要もありません。他の内分泌療法に比較すると副作用は少ない治療法です。
ただし、術後、男性ホルモンが減少するために、EDや女性化現象が出てしまいます。

外科療法
がんが前立腺内に限局しているとき、手術によりがんをとり除きますが、全身麻酔で、手術は約五〜六時間かかるため、かなりの体力と約四週間の入院が必要です。
下腹部を切開し、恥骨の裏側にある前立腺を摘除し、膀胱と尿道を吻合します。その際、リンパ節に転移があるかも調べます。
がんが前立腺被膜を少し越えている場合でも、転移がなければホルモン治療を併用して手術をすることがあります。
【副作用】
 手術の早期合併症として、出血による輸血の可能性、リンパ節切除後のリンパ液の貯留と炎症、縫合不全などがあります。
最近では、手術に備えて自分の血液を貯留しておき、自己血輸血を行うようになっていますので、輸血による血型の不一致や感染症の心配は減っています。
後期合併症としては、尿失禁、ED、尿道狭窄などが挙げられます。尿失禁に対しては、一時的にパットが必要となりますが、約3ヶ月で50%の人が、約6ヶ月で90%の人が改善されるといわれています。薬物投与などで対処できますが、内視鏡的手術で膀胱頚部にコラーゲン注入療法などが行われる場合もあります。EDはがんが小さいうちは勃起神経温存を行うことで予防できる可能性がありますが、がんが拡がっている場合は危険です。最近では、こうした術後EDになった患者さんにバイアグラを処方している場合もあります。
尿道狭窄に対しては、尿道を定期的に拡張することにより対処します。

放射線療法
高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を叩く方法です。
前立腺がんの場合、通常、身体の外から前立腺の患部に放射線を照射します。一般的に一日一回、週五回照射し、五から六週間の治療期間が必要です。
また、骨への転移のための強い疼痛や骨折の危険が高い部位に対症的に放射線治療を行うこともあります。
【副作用】
主な副作用は、放射線による一種のやけどです。そのため、治療中から治療終了後しばらくの間、排尿痛、血尿、腹部やお尻の皮膚のただれ、直腸からの出血などがみられます。
排尿痛に対しては痛み止めの投与、血尿に対しては止血剤投与と水分の多量摂取で対処します。また、皮膚のただれに対してはステロイド剤を塗り、直腸からの出血に対してはステロイド剤や痔の薬を投与します。
また、治療後しばらくしてから、尿道狭窄をきたすことがあります。その際は、尿道拡張術を行います。


トピックス:「永久留置による小線源療法」
前立腺のなかにヨード125などの放射線源を埋め込む新放射線療法
 手術に比べて患者の肉体的負担を軽減、性機能もほぼ維持され治療効果も手術に匹敵することから前立腺早期がんの患者さんにとっては朗報になりそうです。

化学療法
ホルモン治療が有効でない場合や、ホルモン治療の効果がなくなったときに行う治療です。
点滴を用いる場合は、二種類以上の抗がん剤を組み合わせ、八週間以上行うのが一般的です。ホルモン療法と同じように全身に作用しますが、効果が続く期間が短いといわれています。
【副作用】
使用する抗がん剤の種類によって異なり、個人差もあります。
治療中の主な副作用は、骨髄毒性(貧血、白血球減少による感染、血小板低下による出血傾向)、吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢、手足のしびれ、肝機能障害、腎障害、脱毛、疲労感などです。
こうした副作用に対しては対症療法を行います。たとえば、強い白血球減少に対しては感染を防ぐために白血球増殖因子(血液を産生する骨髄に作用し、白血球を短期間で多くつくらせる薬)などを投与します。



 病期別の治療法は、次のように選択していきます。

@前立腺内にがんが限局している場合
経過観察のみで、積極的な治療は行いません。
ホルモン療法を行います。
外科療法を行います。
放射線療法を行います。
外科療法、または放射線療法にホルモン療法を加えて治療します。
A前立腺周囲に拡がっているが、転移がない場合
ホルモン療法を行います。
外科療法にホルモン療法を加えて行います。
放射線療法にホルモン療法を加えて行います。
Bリンパ節転移がある場合
ホルモン療法を行います。
放射線療法にホルモン療法を加えて行います。
C骨、肺などに遠隔転移がある場合
ホルモン療法を行います。
まれにホルモン療法に化学療法を加えて行います。
骨転移部分に痛みがみられる時は、痛みの改善目的で痛む部位に放射線照射を行うことがあります。


■再発時の治療法

PSAの値が治療によって低下していたのに再び上昇してきたり、リンパ節または他臓器に転移や新しい病変がみられたとき、あるいは外科療法を行ったにもかかわらず、摘除した部位にがんの増殖がみられたような場合が再発です。  そのような場合、@他のホルモン療法を行う A化学療法を行う B再発部位が局所であれば、放射線療法または外科療法を行う という選択肢から選ぶことになります。

■前立腺がんの治癒率・生存率

五年生存率は、前立腺内に限局している場合は七〇〜九〇%、前立腺周囲に拡がっている場合は五〇〜七〇%、リンパ節転移がある場合は三〇〜五〇%、骨や肺などに遠隔転移がある場合でも二〇〜三〇%と、かなり高いものです。
全体として、前立腺がんは進行が遅いうえに、ホルモン療法などが有効なため、他のがんと比べると予後のよくなっているのでしょう。とはいえ、一刻も早い発見が望まれることはいうまでもありません。
私が、五〇歳をすぎたら、前立腺の検査を受けましょうと口を酸っぱくするのもそのためです。

【囲み】どうしても聞いておきたい素朴な疑問
Q8 親父が前立腺がんで亡くなっています。私にも前立腺がんが遺伝していないか心配なのですが……。
A これはがん全般にいえることですが、確かにがんの発生には遺伝的要因があると言われています。アメリカでの調査結果では、父親や兄弟が前立腺がんになっている人は、そうでない人の約七倍の確率でがんになっているとも報告されています。
とはいえ、前立腺がんの発生要因の第一は加齢によるものですし、食生活習慣が欧米化したことも、前立腺がんの増加に拍車をかけていると考えられています。つまり、ある意味では、誰でも歳をとるにつれて、前立腺がんになる可能性が高くなるのです。幸いなことに、一般的に前立腺がんは進行が遅いがんです。いたずらに遺伝を心配するよりも、早期発見することが大切です。

【囲み】どうしても聞いておきたい素朴な疑問
Q9 前立腺肥大症でEDになる可能性が少ないことはわかりましたが、前立腺がんの場合はどうなのでしょうか?
A 前立腺がんの手術は、前立腺を切除し、膀胱と尿道をつなぎますが、前立腺だけでなく、尿道、精嚢、リンパ節など、広範囲にわたる組織を切除するのが一般的です。そのため、どうしても周囲の神経や筋肉を傷つけてしまい、インポテンスになる確率も高くなってしまいます。
 最近では、神経保存手術の技術も進んでおり、EDにならずにすむ可能性が高くなってきましたが、相手はなんといっても悪性の腫瘍なのですから、しっかりがんをやっつけることを第一に考えるべきでしょう。
 また、不幸になってEDになっても、1999年3月にバイアグラが登場して、効果がでています。陰圧式勃起補助器具やプロステーシスという器具を陰茎内部に埋め込む術式で、性行為を可能にできます。
●陰圧式勃起補助器具
バキューム・デバイスと呼ばれるもので、真空状態をつくることによって血液を陰茎内に流れ込ませ、人工的に勃起をおこし、リングで陰茎の根もとを締めて勃起を維持します。厚生省に認可されて発売されているものがあり、保険適用ではありませんが、八万円前後で購入できます。
●プロステーシス
大きくは二つの方法がありますが、一つは、中空になっているシリンダーを陰茎の中に入れ、ポンプを陰のうの中に、タンクは膀胱の手前にそれぞれ埋め込みます(ポンプを押すとタンクから液体が陰茎のシリンダーに流れ、勃起し、ポンプのわきの弁を押すと液体がタンクにもどり、勃起がおさまります)。手術は入院が必要で、総額一〇〇万円程度かかります。
 もう1つは、プラスチックなどてつくった棒状の器具を尿道に入れる方法です。経尿道的内視鏡手術が必要ですが、手術は日帰りで可能。器具の価格は二〇〜四〇万円程度です。
 最近では、勃起不全治療剤の「バイアグラ」が第一選択として投与されることが多くなっています。専門医に相談したうえで治療にとりかかりましょう。



第七章 前立腺肥大症とつきあう九つの鉄則

■老化現象だからとあきらめてはいけない

 前立腺肥大症の大きな原因の一つが、誰にでも訪れる加齢であることは十分ご理解いただけたと思います。しかし、前立腺肥大症が老化現象だからといって、あきらめてはいけません。日常生活に気をつけることで、進み具合を遅らせたり、症状を軽めに抑えたりすることができます。
いずれは、誰でも前立腺肥大症になるとしても、自分自身が、いまの生活の中でちょっと気をつけることで、一〇年後、二〇年後には、日々の快適さに大きな違いが出てくるのです。
前立腺肥大症のために、オシッコのコントロールもままならないことになっては、外出するのだってイヤになるでしょう。何より、四六時中、尿意を覚えるようになったり、下腹部に不快感を抱えるようになったり、あるいはオシッコが出なくてつらい思いをするようになっては、イライラが募るばかりで、生きているのがつらくなるばかりです。それでは決してQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を送っているとはいえません。
 長い老後を考えたとき、あなたは、快適で質の高い健康な生活を送るのと、排尿障害を抱えて不快な日々を送るのとでは、どちらを選びたいと思いますか? いまが楽しければ、老後なんてどうでもいいとは、けっして思わないはずです。
前立腺肥大が自然の摂理であったとしても、積極的に前立腺を検査して、適切な治療を受けることで症状は改善されます。また、正しい知識をもって、いまの日常生活に気をつけることで、肥大した前立腺をほんの少し縮小させたり、前立腺肥大の速度を遅らせたり、あるいはそれ以上肥大しないようにすることは可能です。それだけでも、オシッコの出具合は大きく変わり、生活の快適さにも雲泥の差が出てくるのです。
この章では、前立腺肥大症と上手につきあっていくための日常的なポイントを紹介していきます。

鉄則一 お酒の飲みすぎを避ける
 酒は百薬の長といいます。確かに仕事が終わった後の一杯は、ストレスを発散してくれます。しかし、飲みすぎはよくありません。尿閉のきっかけとなることが多く、もともと前立腺が肥大気味だった人が、深酒をきっかけにオシッコが出なくなったと病院に駆け込んでくることはよくあることです。尿閉は、尿路感染症の原因になるばかりではなく、腎機能障害も引き起こしますから、ぜひ避けたいところです。
そもそも、前立腺肥大症の患者さんの前立腺は、素面のときでも充血した状態になっています。そこに大量のアルコールを摂取するのですから、いいわけがありません。前立腺の充血がさらにひどくなり、前立腺が肥大して、尿道を圧迫、ついには尿閉を起こしてしまうのです。
どうも、最近、オシッコのキレが悪いと感じている人、あるいはお酒を飲むと、どうもオシッコが遠くなると感じている人は要注意! 
仲間とのお酒の席でも、「今日はこれぐらいで……」と、節制するぐらいの気持ちをもつてほしいものです。

鉄則二 オシッコをがまんしない
 長い時間にわたってトイレをがまんすることも、排尿障害をさらに悪化させる原因となります。膀胱内に大量に溜まった尿が膀胱を拡張し、膀胱壁はパンパンに膨れ上がります。
 健康な人なら、ギリギリまでがまんしても、トイレに行けば膀胱が一気に収縮し、尿をいきおいよく排出することできます。しかし、肥大症が進み、常に残尿がある状態にあった人の場合は、膀胱の収縮力が弱まっており、トイレにいっても完全に尿を排出することができなくなっており、さらに残尿量が増えていってしまいます。
 また、そういう状態が続くと、排尿するための神経と筋肉のバランスも崩れてうまく働かなくなってしまいます。筋肉が神経の刺激にうまく対応できないようになってしまうのです。ちょうど、長時間正座していると、しびれがきれて、なかなか立てなくなるようなものです。
 仕事柄、途中で自由にオシッコに行けないような人もいるでしょうが、仕事にかかる前にきちんとトイレを済ませておく、また休み時間にはきちんとオシッコにいく、ということを心掛けるべきです。

鉄則三 体を冷やさない
 体の冷えは全身の血の循環を悪くして、前立腺の炎症を悪化させる原因になるといわれています。仕事で、冬場でも長時間外にいることが多い人は、とくに下半身が冷えないように、カイロを準備したり、重ね着をするなど、しっかり身支度するべきです。

鉄則四 一日の終りはゆっくりお風呂に
 一日が終わったら、ゆっくりとお風呂に入って体をしっかり温めましょう。とくに四〇度前後のぬるめのお風呂には、前立腺の緊張をゆるめ、骨盤内の血液循環をよくして、前立腺のうっ血を解消することで、排尿障害を改善する作用があるといわれています。

鉄則五 長時間、座りっぱなしでいない
エコノミークラス症候群は、患者さんが乾燥した飛行機内に長時間座りっぱなしでいたため、血流が徐々に悪くなり、下肢静脈に血栓(血の固まり)ができ、その血栓が肺まで達して肺動脈の血管が詰まり、息苦しさや胸の痛みと起こし、最悪の場合は呼吸困難になって死亡することもある病気ですが、このように長時間、飛行機に乗って同じ姿勢のままでいることは、前立腺肥大症にとってもいいことではありません。
 長時間座った姿勢をとり続けることで、下半身がうっ血し、前立腺の肥大が進み、尿道を圧迫、尿線が細くなってしまうのです。
 こうした症状は、長時間のデクスワークやドライブなどでも起きますから、一時間に一回程度は立ち上がって近くを歩いたり、軽くストレッチ運動をするように心掛けましょう。また、どうしても長時間座る必要があるときには、できるだけ、尿道の圧迫を軽減するために、やわらかなクッションなどを準備しておくといいでしょう。

鉄則六 日本型の食生活を心掛ける
 日本人の食事が欧米型になるにつれて、前立腺肥大症の患者数が増加していることは第二章でも触れましたが、欧米型の食生活でとくに過剰摂取になりがちな動物性脂肪が、前立腺肥大症によくないといわれています。
 動物性脂肪を多量にとり、野菜をあまり食べない人は、男性ホルモン濃度が高くなり、前立腺肥大症を悪化させるというのです。
 そういう意味では、前立腺肥大症の傾向が出てきたら、食事は、魚介類や野菜を中心にした日本型に切り替えてほしいものです。
 とくに、食物繊維の多い、こんぶ、のり、かんぴょう、しいたけ、海草類など、積極的に摂るようにしたいものです。

鉄則七 便秘を防ぐ
 オシッコの出を調節しているのは尿道括約筋ですが、この尿道括約筋のすぐ隣にあるのが肛門括約筋という肛門の開け閉めを調節している筋肉です。
 そして、尿道括約筋と肛門括約筋は、近くにあるだけに、互いに密接に関係しており、肛門括約筋が緊張すると尿道括約筋も緊張してしまいます。
 さて、便秘になると、固いウンコが肛門部にあるために肛門括約筋が緊張した状態になってしまいます。そして、それとともに、尿道括約筋も緊張して、オシッコの出が悪くなってしまいます。そんな状態を長く続くことは、前立腺肥大症にとっていいことではありません。つまり、前立腺肥大症の患者さんは、常日頃から、便通にも注意しなければならないというわけです。
 そういう意味でも、鉄則七でおすすめした日本型の食事を、規則正しく摂ることが大切です。

鉄則八 刺激のある食べ物は避ける
 最近、激辛食品が人気です。鍋やラーメンなども、激辛∞ピリ辛≠ニ銘打たれた商品が目立ちます。しかし、これらの刺激的な食べ物は、前立腺肥大症には大敵です。アルコールと同様、香辛料も前立腺を充血させてしまうからです。

鉄則九 規則正しい生活を送る
 夜更かしを避け、十分に睡眠をとる。
暴飲暴食を避ける。
食事も朝、昼、晩ときちんと摂る。
このように、規則正しい生活を送ることは、すべての人におすすめしたいことですが、とくに前立腺肥大症の患者さんには守ってほしいことです。
規則正しい生活を送ることで、排便・排尿も習慣的になりますし、ストレスもなくなり、全身の健康状態もよくなります。
前立腺肥大症で命を亡くすことはまずありません。排尿をコントロールしながら、いかに健康に過ごしていくかが、前立腺肥大症とつきあっていくときの最大のテーマなのです。

 
鉄則十 他の薬の服用にも要注意!
  前述しましたように、前立せん肥大症の患者さんがカゼ薬や胃薬、精神安定剤などを服用するときは
医師・薬剤師等に相談しましょう。
 これらの薬剤には、排尿障害の症状を悪化させる成分が含まれている場合があります。

ここで紹介した十の鉄則を守れば、あなたもスッキリ快適な毎日が送れるはず!また、長〜い老後を
楽しく過ごすためにも、50歳になったら前立腺の検査を毎年受けるようにしてください。

参考文献

1寺井章人, 筧 善行, 寺地敏郎, 小川 修:1990年代の日本における前立腺肥大症治療の動向 ― 厚生省統計資料に基づいた分析 ―. 泌尿紀要46:537-544, 2000

2大島伸一, 西澤 理, 平尾佳彦ほか:EBMに基づく前立腺肥大症診療ガイドライン. 泌尿器科領域の治療標準化に関する研究会編. じほう, 東京, 2001.

3塚本泰司(企画):前立腺肥大症を診る― 次に何が必要か ―. 第4号Urology     View, メジカルビュー社, 2003

4日本泌尿器科学会 日本病理学会(編):前立腺癌取扱い規約 第3版, 金原出版(株),   2001

posted by 鈴木文夫 at 16:02| 日記